湯島はじめ
あなたの町に
綴じるとしても燃やすとしても知ることは花をこの手にひとつ摘むこと
お互いの城下の古いアパートへ入居を青い契約印で
秋の城は無数の辞書でできている壁の単語を唱えつつゆく
避難ということばの遠さわたしには汀はプール 海ではなくて
町のことを訊けば岬に灯台があるとそれだけ教えてくれた
川に手をさらして両目を瞑るようひとの育った土地へゆくのは
昼日中の駅では水が売り切れて予言と思うこんなことでも
妖精の踊りのあとの血のようなリコリスときに車窓を殴り
バーバ・ヤガー 見知らぬ家を見送って窓に日除けを半分下ろす
暴力のような芽吹きの町にいてあなたひとりが聴く犬の声
鳥の名の店をみんなが知っているあなたの故郷はわたしの異国
三月のままのカレンダー 約束はした日からそこに土嚢のように
なんてきれいな勉強机 守るとは言えずに祈る子どものきみに
こころに居るという動物を知りたくて折り目のついた図鑑をめくる
あかい鉄腕アトムのかばん擦り切れた黒目のだけど笑顔とわかる
プラレールの青い線路を捨てられないあなたの膿のようなやさしさ
中庭に埋まるすべての約束が目には見えないけれど剥きだし
砂糖菓子ほろほろ落とすと列をなす無人の家で増えて減る蟻
傷ついた町のあなたの傷ついたまなこは何処で外したのだろう
あなたはもうとっくに犬を葬ってわたしもやっと鳴き声を聴く
窓をはしる灯りでひかる頬骨を見ている 代筆できないこころ
沈黙をたすけられないやわらかさサンドウィッチの温いレタスは
銀紙で鶴を折ろうとしてやめるあなたの町はあなたの町だ
この間にも漂砂は町をつくり変えきこえる真白いさようなら
ゆっくりとでもたしかに血が入れ替わる川を越したら生活の町
分けあうにはすこし足りないデラウェアすべての暮らしはひとつの事例
ラグに寝るふたりで生きてゆくことをいつまで舟と思えるだろう
これは誠実だろうか 歌でゆっくりと目隠し鬼を導いている
距離を空けて起きればそこに黒犬の眠りの気配まだあたたかい
生き物の名前を今朝も教わった秋の袂で座るあなたに